ヒューマンファクタ
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技術士は文部科学省登録の中立で高等な技術者です。
労働安全コンサルタントは安心して働ける職場にするための
労働安全衛生法の規定による労働安全の専門家です。

ヒューマンファクタ
労働災害事故、それも作業者の関与がある災害が発生すると、
「緊張感が足りないから事故が起きた」
「注意力が足りなかった」 「KY不足」
などと、個人の責任とすることがよく見受けられました。
個人の責任

「ケガと弁当は自分持ち」が昔の職人さんの口癖だったそうです。それは「ケガ」をして痛い思いをするのは自分であってだれも代わってくれないから現場でケガをしないようにするということを、毎日の弁当を忘れないという日常にたとえて、注意を自分にあるいは弟子に喚起したようです。
現場で発生するさまざまな労災事故の多くを、今も「個人の責任」と考えていて、対策はいつもながらの3点セット:
  • お知らせ(通知、告、など)
  • 注意標識
  • 安全会議や朝礼での口頭注意
対策の3点セット
の「ヒューマンエラーを起こさないように皆さんで注意しましょう」のようなパターンになってはいないでしょうか。
自動化された機械で製品を生産するとき、ある一定の割合で不良品が発生します。不良品は検査工程で取り除きます。
管理図

自動化し難いものは、じつは作業のほとんどがそうなのですが、人手で作業を行います。機械は決められたことしかできませんが、人は考えながら様々な作業を器用に行います。万能機である人の作業は守備範囲がとても広いのですが、時には間違いや失敗があります。慣れた作業でも1000回に1回から10万回に1回(10ppm)のような割合です。そのイメージは下図のように表すことができます。

人間の作業精度は正規分布する

この間違いや失敗に作業者が気づけば修正することが出来ますが、修正出来なかった場合はヒューマンエラーとなります。しかし、人間の高いレベルの注意力、集中力は15分から30分しか続かないといわれており、人間が失敗に気づいて修正することを期待するのは難しいことです。これらがヒューマンエラーとなるのです。
自動化された機械にも、人間にもエラーが起きることを説明しました。ではヒューマンエラーとは何でしょうか。
代表的なヒューマンエラーの定義は、
達成しようとした目標から意図せずに逸脱することになった期待に反した人間の行動
です。
この定義では良く分からないので、本資料では現場向きに
「すべきことが決まっている」ときに、
「するべきことをしない」あるいは
「すべきでないことをする」
と後付的にいうこと。
ということにします。
これを簡単に「行動した」/「行動しなかった」の2択とします。分析をするときにもう一つの視点はその時に「意識的であったか」あるいは「特に意識をしていなかった」かの2択です。それを示したのが下図です。
「意識的であったか」あるいは「特に意識をしていなかった」かの2択

無意識のうちにやらなかった事は「ぬけ」といわれますし、意識的にやらなかった事は「手抜き」といわれます。特に意識することなく(無意識のうちに)実行したが失敗した事は「やり間違い」といわれますし、意識的にやってはいけない事をやってしまったのは「余計な行為」と言われます。この4つが大きな分類です。このうち、右半分は意識的に「やってはいけないことをした」および「やるべきことをしなかった」のですから、これを「違反」と呼びます。違反については後ほど述べます。
○○間違いと言う言葉が多くあるように人がおこなったことの間違いはヒューマンエラーの代表的なものです。意識せずに起こしてしまう間違いなので皆さんが経験していることでしょう。
やり間違いのヒューマンエラーが発生するきっかけはたくさんあります。人が情報を入手し、一時記憶し、判断し、以前の記憶と照合し、何を行うか決め、操作に至る下図のような過程でそれぞれ間違いが起こる可能性があります。
操作に至る過程
  1. 見間違える、聞き間違えるなど入力の間違いがあります。見聞きした入力を取り違える間違いもあります。
  2. 入力できた情報の覚え間違い、忘れがあります。人の記憶力は数字7桁±2桁までといわれます。
  3. 経験不足による判断不足があり、ベテランの慣れから来る判断間違い(思い込み、照合不足)もあります。
  4. 決心に時間をかけ過ぎて遅れてもやり間違いになります。
  5. 操作時の選択間違い、力の方向間違い、力の大きさ間違いなどがあります。
やり間違いは、目的とすることと結果が違いますので比較的容易にエラーを検出できます。もちろんフィードバックがある場合ですが。すなわち実行したことへの思い込みがある場合は自分では検出できないでしょう。  やり間違いは「スリップ」と「ミステーク」にさらに区分けすることもあります。
やるべきことを忘れるのも非常に多いヒューマンエラーです。失念、し忘れ、抜け等ともいいます。
車のドア施錠を忘れた、窓を閉め忘れて外出した、切手を貼らずに手紙を投函した、など無数にあります。
このやり忘れは、作業自体を忘れる場合と主要作業の直前・直後にやるべき事をやり忘れることにさらに分けて考えます。
  1. やることの前にやるべきものをやり忘れる、例えばセルフのガソリンスタンドで給油を始める前に静電気除去シートに触れるのを忘れた。
  2. やることの前にやるべきものをやり忘れる、例えばセルフのガソリンスタンドで給油を始める前に静電気除去シートに触れるのを忘れた。
  3. やることの主要な部分は行ったが続く部分を忘れた、例えばセルフのガソリンスタンドで給油後、キャップを締め忘れた。
などです。
「やり忘れ」対策には
  • 工程のくくりを代えて対応する。
  • 手順化する
  • インターロックをかける
  • メモを貼る
  • 時計のアラームをセットする
  • ハードによる防護策(ポカヨケなど)
などがあります。
面倒くさいから規則や手順書通りに作業をしなかった、教わった通りにやらなかったなどが代表的なものです。「手抜き」と言われるような違反は熟練者も行う事がしばしばあります。なおここで言う違反とは、規則・手順・ルール(名称は問いません)があることは知っていたが意図的(意識をもって)にやらなかったことです。
例えば:
  • 棚の上の段ボール箱を椅子に乗って取ろうとした。
  • 切り粉やゴミなどを片付けない
  • 使用した工具を片付けない。
  • 指差喚呼(指差呼称)をしない
など4S(5S)が取り上げるものから安全に直接かかわるもの、例えば
  • 安全帯のフックを腰より高い位置に掛けない
  • 保護帽(ヘルメット)を着用しない
  • 騒音用耳栓を着用しない
  • 転落の恐れのある開口部に蓋をしない

など無数と言えるほどあります。
初心者では、ルール(規則)が良く身についていない場合が多く、恥ずかしがる場合(例えば指差呼称)もあります。
少し慣れてくると、格好が悪い(ダサイ)とか、良い格好をしたがるなどがあります。
ベテランになると「安全ぼけ」(やらなくてもこれまで災害はなかったから大丈夫)といわれるような手抜きがあります。
規則や手順書通りに作業すると手間がかかり作業性が良くないから別な方法でやってしまうような違反行為です。
作業についたばかりの初心者はあまりこの(やってはいけないこと)の違反はしませんが、少し作業に慣れ始めたチョイ・ベテランがやっては駄目といわれていることに軽い気持ちで挑戦しそれが何度かうまく行くと違反が定常化するような場合や、新人が入ると先輩風をふかして違反をそそのかすと言うような事例さえあります。
ベテランの起こす違反は、初心者よりむしろ多いのです。これは「意図的」であり、「故意」なので一見悪質のように思えますが、どこが危険箇所かを熟知し、規則やルールを知っているにもかかわらず、作業効率の良い方法を自らの判断でおこなっているのでは無いでしょうか。ベテランの行為を初心者が表面的に真似て労働災害になっていることにまでベテランは考えなければなりません。この違反に対しては、ルールを守る利点、守らなければならない理由を理解させる教育訓練も必要です。
この違反には、組織ぐるみと後から指摘されるようなものもあります。ステンレス製のバケツを使用して臨界事故を起こしたJCO(1999)は、国から認められた作業手順書ではなく日常的に裏マニュアルを使っていましたが、作業者は、臨界事故は起きないと聞かされているだけで臨界事故の原理や怖さの教育は受けていませんでした。その結果、作業の手間をさらに省略できるバケツを技術職員の確認の元で使用して臨界事故になったのです。
また善意や厚意でやったことが事故につながった事例(2005、東武伊勢佐木線、竹の塚駅踏み記事事故)もあります。開かずの踏切で1時間近く待っている通行人がかわいそうだからと電車運行の僅かな隙間を見計らって遮断器をあげたところ事故になった事はまだ記憶に新しい事です。子どもに父親が働いているところを見せようとした電車運転士もいました。免許取り立ての若い人が友人にかっこいいところを見せようとした交通事故と共通点があります。
人間の行動には、さまざまな要因が影響します。同じ仕事を同じようにしていても、ヒューマンエラーを起こすときと起こさないときがあります。これは人間にヒューマンエラーを引き起こす誘因が影響したためと考えると分かり易くなります。この人間の行動に影響を与える要因のことを、PSF(Performance Shaping Factors)といいます。たとえば機械設備を操作してヒューマンエラーが発生したときに調べてみると、その機械が使いにくかったとか自分にその機械をつかう技能が十分になかった、更に納期に追われていたなどの条件が重なって結果的にヒューマンエラーが起こってしまったと分かったなどなのです。
ヒューマンエラーがなぜ起こったか調査するとき、あるいは対策を検討するときには有効に活用出来ます。リスクアセスメントにおける『危険源リスト』のようなものと考えればよいでしょう。人間に外部から影響するものを外的PSF、自分自身で影響するものを内的PSFといいます。このようにPSFを見いだすことはヒューマンエラーを防止するために何を改善するべきかが分かり易くなります。先の例でいえば、使いやすい機械に改造する(可能な場合)、自分がその機械を操作するための技能を身につけるとか、十分な時間を確保するなどの方策を見つけることなどが有効になります。
内的PSFには、人間の特性
  • サーカディアンリズム(24時間の周期の生活リズム)
  • 眠気(覚醒水準)
  • 高齢化
  • 意識レベル(フェーズ理論)
  • ビジランス課題(意識を集中できる時間は30分から1時間強)
などが含まれます。
人間の生理学的活動と作業者のエラー発生との関連を考えれば分かり易くなります。作業する時に適度の緊張状態が望ましいことは良く知られています。ストレス負荷が高すぎますと人はエラーを起こしやすくなりますし、ゆったりしすぎていてもエラーが発生しやすくなります。
人間の脳の働きを脳波のパターンをもとに5段階に分けて意識レベル(フェーズ理論ともいう)として示したものが下表です。エラーを起こさないためには作業者が常にフェーズIIIの状態にいることが望ましいことが分かります。フェーズIIIは、短時間しか継続できないので、実際にはフェーズIIで作業している時間が多いと考えられます。緊張や興奮状態では、フェーズIVとなりエラーが増えます。そこで、作業中でも危険を予知するとフェーズIIからフェーズIIIに気持ちを切り替える訓練と、フェーズIIでもエラーの発生が少なくなるような操作機器の色分けや配置など人間工学的対策が必要です。

意識レベルの段階分け

人間はおおむね24時間の周期で変動する生理的現象があります。これを概日リズム(がいじつリズム)、サーカディアン・リズムといいます。また人の大脳の活動レベルと意識レベルもこの24時間のリズムを繰り返しています。
ヒューマンエラー防止対策はいろいろ考えられていますが下表のようにまとめられます。ここにあげたヒューマンエラー防止対策は機械や設備、組織的な仕組みなどを最初におこなうことが大前提です。
No. 防止策
1 意識を強化し開発する
2 研修、教育訓練
3 標準化の促進、習慣づけ
4 標準化の促進、習慣づけ
5 標準化の促進、習慣づけ
6 冗長化
7 人間工学的配慮
8 作業改善
9 マニュアル類の改良・補完

ヒューマンエラーの防止の難しさは、
  1. 発生頻度の低さ(発生確率は1万回に1回から10万回に1回)と、
  2. 人間の意識レベルが良好であれば信頼性も良好であるが、
  3. 信頼性の高い水準は短時間(15分から30分程度)しか続かない、
ことにあります。したがって発生するヒューマンエラーを人間が検出して修正することには自ら限度があります。これは人間の特性そのものだからです。


(1)ぽかよけ(エラープルーフ)

人間を変える事が出来ないのなら、人間以外の、
  • 作業の対象となる物の形状・色、
  • 作業で使用する設備、
  • 作業指示票の様式、
  • 作業の手順などの作業方法(作業を構成する人以外の要素)
を工夫することで,エラーおよびそれに起因する種々のトラブルを防止することをおこないます。これをフールプルーフといいます。フールプルーフをポカヨケ、バカよけということもあり、"バカ"という言葉を回避してエラープルーフということもあります。ここではエラープルーフとしますがフールプルーフと同じものです。
エラーを起こさないために最も有効な手段は、その作業をせずに済ませることです。「その作業を行わない」(排除という)あるいは「別な方法でその作業の目的を達成する」(代替え化)ことが出来ない場合には「その作業をやりやすくしてエラーの発生を無くす(大幅に減少させる)」(容易化)ことがおこないます。やむなく人が作業を行うならその作業にエラーがなかったかチェック(異常検出)します。チェックで異常が見つかれば次の工程の前にやり直せます。チェックで異常が見つからず、次工程あるいは出荷されお客様に渡された後にエラーがあった場合には、そのエラーの影響が少なくなる(影響緩和)ように配慮します。
原理
排除
代替え化
容易化
異常検出
影響緩和


(2)視覚シグナル

人の見やすい視野は、水平面から下方30度、正面の50度の範囲と言われています。(下図)
視覚シグナル
目で見るものを視覚シグナルといいますが、明るさ、色、コントラストに十分配慮してどのような照明環境でも見やすいものでなければなりません。表示灯の色、押しボタンスイッチの色は、国際安全規格(JIS規格)に沿ったものを採用し、作業者に混乱を与えないようにしなければなりません。この色彩のことをカラーコーディングといいます。また手動操作器(押しボタン、セレクタなど)に使用する図記号も分かり易い国際安全規格(JIS規格)に沿ったものとし必要に応じて分かり易い銘板をつけます。

現場には警告標識、注意標識などたくさん貼られていますが、本当に必要な箇所に必要なものだけが貼られていることが重要です。不要な標識が幾つもあると本当に必要な標識を見逃します。これを標識汚染といい、ヒューマンエラーを発生させる要因になります。


(3)聴覚シグナル

先に述べた視覚シグナルは視野に入っていることがシグナルを伝えるために必要ですが、聴覚シグナルは音が聞こえる範囲であれば作業者に伝えることが出来ます。ただし伝えることの出来る情報の量は音の高低、断続、音色など人が認識できるものに制約があって少ないため聴覚シグナルで注意を引いた後に視覚的な手段で情報を伝達することが行われます。


(4)触覚シグナル

先に述べた視覚シグナルは視野に入っていることがシグナルを伝えるために必要ですが、聴覚シグナルは音が聞こえる範囲であれば作業者に伝えることが出来ます。ただし伝えることの出来る情報の量は音の高低、断続、音色など人が認識できるものに制約があって少ないため聴覚シグナルで注意を引いた後に視覚的な手段で情報を伝達することが行われます。


(5)いろいろな工夫

アクチュエータの操作方向と操作量の増減の方向には基本的な取り決めがあります。非常停止押しボタンは手のひらでたたけるようにマッシュルーム型のヘッドで赤色、周囲は黄色と統一されています。両手押しボタンやイネーブラーもヒューマンエラーが起きないように特別な機能を持っています。操作卓のレイアウトにもいろいろの工夫がされます。これらは設計者と使用者の協調が必要なことがらです。


(6)人間特性の活用

ヒューマンエラーは人間が深く関わるものですから人の特性を利用してヒューマンエラーを防止することをおこないます。
1)指差呼称
指差呼称は旧国鉄から始まったものですが今では産業界で広く行われています。指差呼称の効果は、
  1. 指で差すことでそこに注意を焦点化出来ます。注意を焦点化すればぼんやりしていたものが見えることも期待出来ます。
  2. 行為を意識化することが出来ます。習慣的な行為、とりわけ事故に直結しそうな行為、は必ず指差確認しましょう。
  3. 行為を口に出すことで記憶に結びつきます。行ったかどうか心配になることが少なくなります。
  4. 特に意識することなく自動的に流れやすい熟練した行為であっても、知覚(作業のきっかけの入力)と行為(反応)の間に、指で差し、口に出すという全く別な動作が入るので、焦りに似た緊張と習慣的動作のスピードダウンを採ることが出来ます。達人は間合いの取り方というか一呼吸を間に置くことが出来る人です。
  5. 指差呼称をすると周囲の人と情報共有することが出来ます。周囲の仲間に自分の行為を目に見える形、音声として聞こえる形で示せる利点があります。これは、組織の安全風土の醸成に役立ちます。
2)なぜなぜ問答をする、
3)疑問はすぐ尋ねる習慣を身につける
4)手順書と基本ルールを守る
5)コミュニケーションを徹底する
6)危険予知トレーニング(KYT)をおこなう


(7)規則違反と対策

ヒューマンエラーを「行動した」・「行動しなかった」と「意図的におこなった」・「特に意識することなくやっていた」に区分すると考えやすい事を説明しました。「特に意識することなく」に区分される「やり間違い」と「やり忘れ」のヒューマンエラーは見聞きしたものをどのように情報処理してゆくかと置き換えて考えることができますので、ヒューマンエラーは個人との関連で理解することができました。したがってヒューマンエラーの予防は、知識、情報提示などの改善によっておこなうことが通常です。
これに対して、「意図的におこなった」違反は、なぜそのようなことをしたかという動機付けの問題から考えます。
1) ルールを知らない
作業者がルールを知らなければ、守るべきルールが存在しないのと同じです。もし作業者がルールを知らなかったとすれば、教育をしなかった管理者の責任でしょう。しかしルールの中には、異常時対応のルールなど滅多に使用しないものありますので、ルールを思い出せない、ルールがあること自体を思い出せない場合もあるでしょう。人はすべてのルールを暗記することはたいへん困難でしょうから、チェックリストを整備したり、異常時対応マニュアルを工夫したり、定期的なトレーニングをおこなうなどの工夫が必要になります。
2) ルールを理解していない
ルールは知っていても、なぜそうしてはならないのかの理由を理解していない場合は、ルール違反に対する心理的ブレーキがかかりにくいものです。作業手順書の安全に関わる規則に従うことは、手間がかかったり、遠回りになったり、コストがかかったりします。作業効率を上げるための改善活動作業、小集団活動などで安易に作業手順の変更を行うと、事故を起こさないための手順が存在する理由が忘れられたり、撤廃されたりする傾向があります。そこで事故が発生して作業手順書に安全手順を追加するときには、どのようにするか(ノーハウ)だけではなく、なぜこの手順が必要であるか(ノーホワイ)を記述するなど、事故の経験を風化させず、効率化のための小さな改善が貴重な苦い経験から造り上げた安全システムを無力化しないように配慮をしなければなりません。
3) ルールに納得していない
ルールの必要性は表面的に理解していても、そのルールの必要性に納得していない人は違反をおかしやすいものです。厳しすぎるのでは・・・、それほど手間をかけなくてもよいのでは・・・と考えている人が多ければ自ずと違反者も出ます。こうした違反はやるべき事を意識的にしなかったという作業を省略する形で表れます。例えば、項目の多いチェックリスト、作業につづいて別のひとが検査しさらに確認するトリプルチェック体勢などです。
4) ルールを守らない人がいる
ルール違反者がすこしでも存在していますと、自分も守らなくてもよいのではないかと考えます。職場の同僚、とりわけ上司が違反しているのをみると、自分だけが守るのが馬鹿らしくなります。ルールの目的を十分理解せず、ルールが面倒であるという気持ちを持っている場合、他人の違反に同調する行動をとりやすくなります。自動車が来ない横断歩道に赤信号で止まっている大勢の歩行者のうち、一人が信号を無視して横断し始めると、何人かが渡り始める現象はよくあることです。「赤信号、みんなで渡れば怖くない」は産業の現場に通用させてはなりません。
5) ルールに違反してもいままで事故が無かった
いままで何度もルール違反をしてきたが、事故も起きず、会社からも叱られず、新人からは半ば驚きの目で見られるような誤った成功体験がある場合にはルール違反は無くなりませんし、かえって蔓延する恐れさえあります。
6) ルールに違反しても罰せられない
作業規則違反や職場のマナーを管理者が黙認していると,その違反は職場に蔓延していきます。守るべきルールやマナーはある程度の強制力を持って守らせなければなりません。


(8)組織事故

ここまでその事故の影響が個人のレベルで収まる個人事故にかかわるヒューマンエラーについて述べてきました。その事故の影響が組織全体に及ぶような事故を組織事故といいます。
 組織事故では一般に複数の原因が存在します。その場合には事故に直接関係のない人達にも関係があります。個人のエラーが事故の直接のきっかけであったとしても、水面下には多くのエラー、それを組織エラーと呼びましょう、があります。そのイメージ図を次に示します。
ヒューマンエラーの重層階層
水面上のエラーは事故の原因として表面化されやすい(即発性エラーといいます)のですが、水面下にある「組織のエラー」はいつまでも隠れたままであり(潜在的原因といいます)なかなか是正もされません。潜在的原因となる組織のエラーが表面に表れるのはかなり重大な事故のときなのでその被害はとても大きくなりやすいです。事故の発生原因を穴のあいたチーズ(スイスチーズ)に例えたのがリースンJのスイスチーズモデルです。
機械や設備に潜在する穴
大きな事故になるのはスイスチーズの穴が重なり合ったときです。それぞれの防護層を深くして種々の監視的手段で防護層の穴(すなわち欠陥)を絶えず抽出して是正することが安全にとってとても大切なことなのです。


(9)終わりに

ヒューマンエラーとは何だろう、ヒューマンエラーを防止するにはどのような方法があるのだろうか、というような日常的な疑問に対して簡単に説明しました。
職場の皆さん、安全衛生スタッフ、安全衛生の指導者の方々にすこしでもヒューマンエラーのことをお分かりいただけたならば幸いです。
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